19世紀後期頃製のペンダントヘッドです。
蓋が開閉するロケットタイプになっています。
表面に描かれるのは左右対称に広がる草花とリボン結び。
花や葉、結び目には小さなパールがあしらわれています。
これらのパールはおそらく丸い球状ではなく、半分に
カットしたハーフパールでしょう。
地金に草花柄を彫り、高さを抑えたパールを
埋め込むようにセットすることで、白く上品な光沢が
控えめに覗きます。
パールの凹凸の少なさ、加えて一面を覆う明るい
ブルーエナメルの艶やかな質感により、その触れ心地は
いっそう滑らかです。
各モチーフに隠された意味も紐解いてみましょう。
上部の蝶結びは「解けない愛」を表現。
中央の花は勿忘草、「私を忘れないで」の花言葉が有名です。
三つ葉のクローバーは「愛」や「希望」を象徴します。
それら全てを「涙」を表すパールで飾り、そっとロケットを
開くと中には二面、写真等を収納できるスペースが
設けられています。
当時の人々が好んだ、幾重にも愛のメッセージを込めた
ジュエリーを贈り身に着ける風習は、現代の私たちに
とっては少々過剰に思えることもあるでしょう。
ただ勿忘草の青い花色を、あえてモチーフ単体ではなく、
作品全体に用いるような洒落たセンスにも、現代では
なかなかに出会うことが難しく、まさにアンティーク
ならではの作品といえるかもしれません。
ホールマークは摩耗のため不鮮明ではありますが、
オーストリア=ハンガリー二重帝国時代のシルバーを示す
ものに見受けられます。
エナメルの僅かな剥がれ、傷は経年と素材特有の味わいで
あり、作品の完成度に影響は与えないものと考えます。
年代 1800年代後期
国 オーストリア(推定)
素材 シルバー エナメル パール
サイズ 約5cm×3cm
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