アンティークのシェルカメオです。
ギリシャ神話に登場する神、パーンをモチーフにしています。
パーンはヤギの角と下半身を持つ牧神、豊穣神です。
十二星座の「山羊座」はこの神の姿を表しています。
神話では、思いを寄せる精霊が姿を変えた葦を切り取り、
笛を作ったエピソードが有名で、今作でも、半身にヤギの
皮を纏い、その葦笛「シリンクス」を首から下げた姿で
描かれています。
頭部の葡萄飾りを見るに、おそらく酒神ディオニュソスを
信奉し催された、熱狂的な祭礼の一場面を切り取った
ものなのでしょう。
その笑みからは陶酔、あるいは更なる感情の昂ぶりが
伝わってくるようです。
淡い茶を背景に、白く浮き出た人物部分の顔や髪、
装飾の彫りは非常に繊細で凝ったもの。
しかしながら今作のポイントは、その彫りの素晴らしさ
だけではなく、大きくカーブしたシェルの形状や、
絵柄の構図にあります。
湾曲したキャンバスは、例えばカメオにおいてより
一般的ともいえる人物の横顔を彫るには適さないものの、
角度やポーズ次第では、十分にその特性を生かすことができます。
体の中心、首から顎にかけてをぐっと前に突き出し、
その姿を大胆にも正面からとらえた構図は、素材の利点を
最大限に活用するもので、モチーフをより力強く、
立体的に描き出しているのです。
今作は19世紀、グランドツアーと呼ばれる富裕層の旅の
記念品としてイタリアで製作されたカメオに、
現代のフレームを合わせたものと推定します。
オリジナルの枠であれば、当時流行した古代風のデザインや、
小さなハーフパールがあしらわれていたかもしれません。
大粒のパールでぐるりと取り巻く斬新なスタイルは
現代のものならではで、あまり見かけることのない
モチーフのユニークさをより際立たせています。
シェル背景部分に幾筋かのヘアライン、フレームとの境目に
小さなキズのようなものが見られますが、作品の完成度、
耐久性に影響はないものと考えます。
年代 1800年代中期頃(カメオ)
国 イタリア
素材 シェル パール 18金
サイズ 約5cm×4.3cm(フレーム部分含む)
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