手をモチーフにしたスティックピンです。
19世紀の前半、ジョージアンからヴィクトリアン初期の頃に
かけての作品と推測されます。
一見風変りにも思える、特定の身体パーツのみを取り上げた
ジュエリー。
しかしこと手に関しては、当時好んで用いられた人気の高い
モチーフで、リング、ネックレス、ブローチなどあらゆる
アイテムで目にすることができます。
差し出し、携え、握り合い、手による意思疎通や感情表現は
様々な時代や国、文化においてごく一般的に行われます。
愛情や友情の表現、伝達に最適な「手」が、メッセージ性を
帯びたジュエリーの流行するこの時代の作品に多く登場するのは
当然のことといえるかもしれません。
モチーフの背景や個性への関心と共に、造形物としての
出来栄えの良さにも大変興味を引かれます。
ほっそりとした、しなやかな右の手。
掌は柔らかくカーブし、親指の付け根はふっくらと、爪や
関節の皺までもが刻まれる精巧さです。
親指と人差し指とで輪を作り、他三本の指はごく自然な
様子で伸ばされています。
古代ギリシャで用いられた愛を伝えるサインと同種のものなのか、
あるいは現代のように了承や同意を示すのか、その意味は
定かではありませんが、少なくともこのクオリティーの中で
たまたまとられたポージングだということはなく、何らかの
意図的な表現だと考えられるでしょう。
手全体は微小な凹凸で艶消しの質感に仕上げられ、袖口には
レースでしょうか、ひだのついたデザインが施されています。
モチーフのサイズは僅か2.1センチ×0.8センチほど。
スティックピンという用途を考えても、けして装いの主役と
までにはならない小さなアイテムに、隅々まで手をかけ
これだけの完成度を提示できるのが、19世紀初頭のジュエリーの
粋であり魅力に他なりません。
年代 1800年代前期
国 ヨーロッパ
素材 ゴールド
サイズ 約5.8cm
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