三日月をかたどったブローチです。
1830年〜40年頃、ジョージアンからアーリーヴィクトリアン期に
かけての作と推測します。
作品の構造は、三日月型のフレーム内に、五つのパーツを隙間なく配し
枠内を埋めたデザイン。
見どころはその驚くほどに繊細なゴールドの細工です。
密接した五つのパーツはそれぞれが、フィリグリー(線状細工)で
立体的に形作られています。
刺繍から着想を得たとされる技法なだけあり、金属とはとても思えない、
まさに糸のような細さです。
月型の外側を縁取るのは、丸いつぶつぶとしたゴールドと、何か、
肉眼でははっきりと認識することが難しい突起物です。
ルーペで覗くと、この突起の一つ一つが、極薄く幅の狭い金の板を
くるくるとコイル状に巻き上げたものであることが分かります。
これはカンティーユと呼ばれる、ジョージアンを代表する金属の
加工技法の一つです。
戦争により金の供給不足に陥っていた状況の中、いかに少量の金で
豪華な装飾を実現するかに腐心した結果たどり着いた、職人たちの
技術と努力の結晶といえるものなのでしょう。
フィリグリードームの頂上や、三日月の先端に向けてちょんちょんと
飾られているのは、淡いブルーのベリルです。
エメラルドやアクアマリンと同じ種類に属する宝石ベリルは、その
豊富なカラーバリエーションが好まれてでしょうか、アンティーク
ジュエリーでは時折目にする機会があります。
主張しすぎない色でゴールドの細工を引き立てつつ、宝石特有の
華やかな輝きを加え、さらに月の持つ神秘的なイメージにも
ぴったりな、大変素晴らしい選択です。
軽やかな透かし細工は、合わせる背景色により表情もがらりと
変わります。
時代を反映する技術や細工を味わうと共に、着用においても一層
楽しみが広がります。
年代 1800年代前期
国 ヨーロッパ
素材 ベリル ゴールド
サイズ 約3.5cm×3cm
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